2025年開催のレポート
現場での実践知とテクノロジーがつなぐ
新しい防災の共創モデル
防災テックの“最前線”を知るイベントとして2021年から続く「防災テックスタートアップカンファレンス」は、今年で5回目を迎え、10月30日にオンラインで開催されました。
登壇者には多様な分野の専門家やスタートアップが集結。気鋭のスタートアップ企業の技術と最先端の取り組みなど、科学的な知見と現場の実践知を掛け合わせて未来社会を支える新たな共創モデルが提示され、防災テックのこれからを考える3本のトークセッションと4社の企業ピッチが実施されました。
社会課題を解決へ導くテクノロジー
スタートアップが描く防災の次の10年
防災テックが社会のインフラとして根づきつつある今、現場の知恵とテクノロジーを結ぶ取り組みは、次の災害に備える社会の形を確かに変えはじめています。気候変動リスクや災害対応の現実を踏まえつつ、行政や産業界、スタートアップがどう連携し、テクノロジーを通じて社会の”備え”をアップデートできるのか。防災の未来を見据えてさまざまな角度から熱い議論が交わされました。
参加は過去最多の約1,300人となり、関心の高まりを象徴する回となりました。「防災テックスタートアップカンファレンス」は、これからも未来の防災ビジョンを描く場として進化を続けていきます。
TALK SESSION 1
新井 元行 氏(株式会社Synspective 代表取締役CEO)
佐藤 将史 氏(一般社団法人SPACETIDE 共同創設者・理事兼CSO)
村上 建治郎 氏(株式会社Spectee 代表取締役 CEO)
TITLE宇宙テクノロジーで切り拓く未来の防災 ~衛星データとAIが築くレジリエントな社会~
宇宙技術を特別なものから身近な存在へ
テクノロジーで災害対応のスピードと精度が変わる
最初のトークセッションでは、宇宙技術とAIを活用した新しい防災の形をテーマに議論が交わされました。Synspectiveの新井氏は、自社の衛星群による観測技術を紹介し、「これまでは人の足と目でしか確認できなかった被災現場の状況が、衛星なら雲や夜間にも左右されずに観測できるのが強み」と説明。2030年までに30機以上の衛星を打ち上げ、10〜20分間隔で世界中の災害状況を観測できる体制の実現を目指していること、そして高頻度の観測データをもとに迅速な意思決定を支援する構想を語りました。SPACETIDEの佐藤氏は、宇宙業界全体を束ねるシンクタンクのような立場から産官学の垣根を越えた人材育成やコミュニティ形成に取り組んでいることを紹介。業界全体を盛り上げていくことがミッションであると述べました。
Specteeの村上氏は、自社で展開するAI防災情報プラットフォームの事例を紹介し、「衛星データとSNSなど多様な情報を組み合わせることで現場の状況が見える化され、災害対応が大きく進化するはず」と語りました。遠い存在だった宇宙データの社会実装が現実味を帯びてきたことを感じさせるセッションとなりました。今後は衛星・AI・SNSなどの連携がさらに進み、迅速かつ質の高い災害対応が期待できそうです。
TALK SESSION 2
越智 浩樹 氏(WOTA株式会社 執行役員 渉外統括)
樋口 辰徳 氏(JICA 民間連携事業部企業連携第1課 課長)
根来 諭 氏(株式会社Spectee 取締役 COO 海外事業責任者)
TITLE防災テックスタートアップの海外戦略
〜日本から世界へスタートアップが変える世界の防災〜
日本発の防災テックを世界へ
公的支援と情熱が拓く海外展開
日本の防災テクノロジーをいかに海外へ展開するかをテーマに、3名が議論を交わしました。Specteeの根来氏はモデレーターとして、日本政府による防災技術の輸出推進を背景に「今こそ海外に出る好機」と述べ、各登壇者の取り組みを紹介。JICAの樋口氏は、社会課題解決型ビジネスを支援する「JICA Biz(中小企業・SDGsビジネス支援事業)」について説明し、「民間の情熱と公的機関のネットワークが合わさることで海外展開は加速する」と話しました。
WOTAの越智氏は、水循環システムを用いた同社の防災事業と住宅事業を紹介し、「上下水道に依存しない分散型の水インフラが、国内外の災害対応を変える」と説明しました。カリブ海やインドでの事例を挙げ、「現地に飛び込み、実態を自分たちの目で見ることが重要」と強調。
根来氏は、SpecteeがSNS情報を活用した災害情報システムをフィリピンに展開していることに触れ、「スタートアップが世界で信頼を得るには、JICAなど現地パートナーとの連携と情熱が不可欠」と締めくくりました。防災ビジネスの国際化に向けた具体的なヒントが詰まった、熱量あふれるセッションとなりました。
STARTUP PITCH 1
株式会社Spectee
代表取締役 CEO
村上 建治郎 氏
TITLEAI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」
AIとデータで進化する「Spectee Pro」
災害リスクを見える化し、迅速な意思決定を支援
東日本大震災での被災地支援の経験をきっかけに設立された株式会社Specteeは、「危機を可視化する」をミッションに、世界中のデータを解析して災害・危機情報を迅速に提供するAI防災ソリューション『Spectee Pro(スペクティプロ)』を展開しています。SNSやニュース、監視カメラ映像、衛星データなどをAIが24時間解析し、発生から1分で被害状況を可視化。自然災害だけでなく、サイバー攻撃や感染症、テロなど多様なリスクにも対応します。現在、都道府県庁の約7割やイオンなどの企業で導入が進み、2024年からはフィリピンでも展開を開始。同社のサービスがサプライチェーンのリスク管理にも活用されており、社会全体のレジリエンス強化に貢献しています。
STARTUP PITCH 2
SPACECOOL株式会社
取締役 CSO
宝珠山 卓志 氏
TITLE防災の視点から見た放射冷却素材「SPACECOOL」の可能性
災害級の暑さに挑む放射冷却素材
電力を使わず“冷やす”クライメートテック
SPACECOOL株式会社は、国内発のクライメートテック企業で、自然界の放射冷却現象を応用した革新的な冷却素材『SPACECOOL(スペースクール)』を開発しています。太陽光を95%反射し、熱を宇宙へ逃がすことで、電力を使わずに対象物を冷却できる世界最先端の素材です。空調室外機に施工することで最大18%の電力削減を実現するほか、分電盤や制御盤の安定稼働、鉄道設備の保護、工場や倉庫の熱環境改善など、幅広い分野で効果を発揮。建物でも、防水シート上への特殊施工により電力を約8%削減した事例も確認され、畜産分野では豚の熱中症対策に、食品分野ではフードロス30%削減にも寄与します。宝珠山氏は「ゼロエネルギーで冷やす技術が、都市と社会の安定化につながる」と語り、災害級の暑さが加速する日本において今後ますます注目が高まる素材であることを強調しました。
STARTUP PITCH 3
株式会社Gaia Vision
代表取締役
北 祐樹 氏
TITLE気候変動・洪水リスク分析プラットフォーム「Climate Vision」
気候変動と洪水リスクを可視化
リアルタイム予測で迅速な避難や対策へ
東京大学発の気候科学・水文学専門ベンチャーである株式会社Gaia Visionは、気候変動による自然災害リスクを科学的に可視化する『Climate Vision(クライメート・ビジョン)』を開発。世界中の気候変動・洪水リスクを現在から将来まで解析できるプラットフォームとして、NECや三菱UFJ銀行などの企業が活用しています。また、日本国内向けには36時間先までの洪水範囲と浸水深を予測する『Water Vision(ウォーター・ビジョン)』をJAXA・東京大学で共同開発し、提供。2025年8月の九州豪雨では熊本県の河川氾濫を12時間前に予測するなど、高精度なシミュレーションで実績を重ねています。北氏は「地球と社会を科学で見通し、人の持続可能な幸せを実現する」というミッションを掲げ、AIや衛星データを活用した新たな災害予測研究を進めていると語りました。
STARTUP PITCH 4
株式会社Laspy
代表取締役社長
藪原 拓人 氏
TITLEサブスク型防災備蓄BPO「あんしんストック」
約6割の企業が必要量を満たせていない防災備蓄問題解決へ
サブスク型防災備蓄BPOサービス『あんしんストック』
株式会社Laspyが提供する『あんしんストック』は、防災備蓄をサブスクリプション型で管理・運用できる法人向けBPOサービスです。企業や自治体が抱える「備蓄の更新忘れ」や「在庫管理の煩雑さ」といった課題を解消し、日常業務の延長線上で持続的な防災対策を実現します。藪原氏は「“買って終わり”ではなく、常に備える仕組みを社会に浸透させたい」と語り、具体的には防災備蓄品の提供から保管スペースの確保、データベース整備、管理システム提供、棚卸し、期限前の自動交換までをカバーすると紹介しました。導入企業の生産性向上やBCP(事業継続計画)の高度化を支援し、災害リスクを平時から軽減する新たな防災インフラとして注目を集めています。
STARTUP TALK SESSION
村上 建治郎 氏(株式会社Spectee 代表取締役 CEO)
宝珠山 卓志 氏(SPACECOOL株式会社 取締役CSO)
北 祐樹 氏(株式会社Gaia Vision 代表取締役)
藪原 拓人 氏(株式会社Laspy 代表取締役社長)
TITLE自然災害にスタートアップはどう立ち向かうのか?
〜防災×起業家;未来社会を支える新しい挑戦〜
防災を日常に溶け込ませる
スタートアップが拓く社会実装の最前線
防災分野で挑戦を続けるスタートアップ4社の経営者が登壇し、テクノロジーの社会実装と事業成長の両立について語りました。村上氏(Spectee)は「発災直後のリアルタイム可視化を重視している」と述べ、SNSや衛星画像などマルチソースを統合して現場の意思決定を支援する重要性を示しました。宝珠山氏(SPACECOOL)は、放射冷却による温熱環境の改善を紹介し、屋外機器やデータセンター、日傘など日常用途まで広がる手応えを共有しました。北氏(Gaia Vision)は、グローバル予測にも対応する洪水・気候リスクのデータサービスを解説し、「科学的根拠に基づく計画」の必要性を強調。藪原氏(Laspy)は、防災備蓄をBPO化したサブスクサービス『あんしんストック』を通じ、在庫・棚卸・期限前交換までを包括的に担い、各企業における日常業務の生産性向上に資する点を説明しました。
また、登壇者たちは、それぞれ自社の強み・推しポイントを「リアルタイムな可視化」「放射冷却“日本発・世界水準”」「グローバル予測」「生産性向上」などフリップに書いて披露。テクノロジーを生かして“備えを日常に溶け込ませる”ことの重要性を共有。具体的な運用・オペレーションまで踏み込む姿勢で、防災の新しい実装モデルを示し、未来への展望を描き出しました。
次の災害に備える社会へ
進化を続ける防災テックの最前線
開催5年目を迎えた「防災テックスタートアップカンファレンス2025」には、過去最多となる約1,300人が参加しました。分野や業種の枠を超えて多彩な分野の専門家が集い、AIや衛星データ、環境テック、備蓄BPOなど、これまでにない切り口から防災の未来が議論されました。
トークセッションでは「防災を日常にどう組み込むか」を軸に、スタートアップが描く新しい防災の形が共有され、テクノロジーと現場知をつなぐ共創の可能性が示されました。企業ピッチでは、現場の課題に即した実践的なソリューションが次々と披露され、会場は大きな熱気に包まれました。
災害の多発する時代だからこそ、社会全体で備える仕組みづくりが求められています。これからも「防災テックスタートアップカンファレンス」は、未来を支える挑戦の場として進化を続けていきます。
過去のイベント開催情報
