2024年開催のレポート
防災テックの“今”がわかる
官民の垣根を超えた熱いディスカッションから未来を展望
防災テックの“今”を知るイベントとして2021年から続く「防災テックスタートアップカンファレンス」は、今回で4年目を迎え、2024年10月25日にオンラインで開催されました。
2024年は元日の能登半島地震に始まり、日本全体が防災の重要性を再認識させられる年となりました。本カンファレンスでは、能登半島地震の際に対応にあたった前石川県副知事・西垣淳子氏や、国内外の災害被害を削減するために尽力する、日本防災プラットフォームの代表理事・西口尚宏氏らをゲストスピーカーにお招きし、3つのトークセッションを実施。そのほか、防災・危機管理の分野でイノベーションを追求し、最先端の取り組みを進めるスタートアップ4企業による事業やサービスを紹介するセミナーも行いました。
災害大国だからこそ見える課題や展望について、官民の立場から意見を交わす
災害大国・日本から多くのスタートアップが立ち上がり、自治体・民間企業がボーダーレスに共創し、未来へ向けてどんな展望を胸に前進しているのか、それぞれの視点からのお話をいただきました。
TALK SESSION 1
西垣 淳子 氏(前石川県副知事)
木村 将之 氏(デロイト トーマツ ベンチャーサポート COO / パートナー)
村上 建治郎 氏(株式会社Spectee 代表取締役 CEO)
TITLE能登半島地震・気候危機から考える防災テックの現在地
能登半島地震の教訓を振り、返り防災テックの未来を探る
イベントの幕開けである1本目のトークセッションでは、2024年1月1日に発生した能登半島地震を振り返りながら、防災テックの現状と重要性、今後の課題について語りました。西垣氏が元日の災害における被災者情報の正確な把握や、新しいテクノロジーの活用が難しかったことに触れ、木村氏は海外の事例を挙げて平常時から技術を導入しておく重要性を指摘。対して西垣氏は有事から平常時の新しい導入へとつながる「逆フェーズフリー」について話し、特に過疎地のニーズに応じたシステム構築の重要性が議論されました。さらに村上氏は、提供するAIリアルタイム防災・危機管理サービス『Spectee Pro』の活用事例を見せつつ、「防災テックのさらなる発展には、自治体とスタートアップの連携や手続きの見直しが不可欠」と結びました。防災テックの社会実装を進めていく上で具体的な道筋が見える有意義なセッションとなりました。
TALK SESSION 2
西口 尚宏 氏(日本防災プラットフォーム 代表理事 / Startup Genome Japan株式会社 代表取締役)
舘 健一郎 氏(国土交通省 総合政策局 海外プロジェクト推進課 国際建設管理官)
根来 諭 氏(株式会社Spectee 取締役 COO 海外事業責任者)
TITLE防災テックスタートアップの海外展開
人の命を救う 防災産業の未来、 災害大国・日本の取り組みと海外への展開
2本目のトークセッションでは、「防災テックスタートアップの海外展開」をテーマに、防災の海外展開の現状と今後の展望を話し合いました。「命を救う産業はヘルスケアと防災の2つのみであり、防災も大きな産業に成長する可能性がある(西口氏)」という意見に、舘氏は、日本が防災に関して国際的なリーダーであることを挙げ、改めて防災対策の重要性を語りました。さらに根来氏は、「防災が国のレジリエンスを高め、経済の潜在力向上にもつながる」と発言。日本の技術をそのまま輸出するのではなく各国の法制度や文化に配慮しながら、テクノロジーを進化・適用させる意義についても触れました。西口氏は、今後はアメリカ市場における防災テックの展開が期待されていると述べ、「気候危機(climate crisis)に対するソリューションも新たなビジネスチャンスにつながる」と予測。トークセッションは、行政とスタートアップが知見を共有しながら国際的に防災を進化させていく大きな一歩ともいえる有意義な時間となりました。
SEMINAR 1
株式会社Spectee
代表取締役 CEO
村上 建治郎 氏
TITLEAIで予測・可視化する防災・危機管理サービス
「Spectee Pro」で迅速な危機対応を
震災経験から危機情報の可視化の重要性を認識し、災害時の情報不足を解消するために誕生した「Spectee Pro」。SNSや気象情報、河川・道路カメラなど多様なデータから被害状況を即座に可視化し、自治体や企業の危機対応を支援します。2024年の石川県での豪雨対応では、孤立集落の状況をリアルタイムで把握。災害リスクの迅速な共有により、効率的な救援が可能となりました。契約実績は1100以上とすでに多くの業種・領域で活用が進んでいますが、今後もAI技術や衛星データ等活用を通し、予測・可視化技術にさらに磨きをかけることで、災害や危機に強い社会づくりへの貢献が期待されます。
SEMINAR 2
株式会社KOKUA
代表取締役 CEO
泉 勇作 氏
TITLEBtoCにも目を向けて、防災意識を「0から1」へ
人に寄り添うパーソナルなアプローチで防災をより身近に
阪神淡路大震災で被災した泉勇作氏が創業したKOKUAは、住所や簡単な質問に答えるだけで一人ひとりに最適な防災グッズをレコメンドし、避難情報も提供するパーソナル防災Webサービス「pasobo」を展開。2021年にグッドデザイン賞を受賞した、法人・個人向けの防災カタログギフトサービス「LIFEGIFT」に続き、防災の「最初の一歩」をサポートするサービスです。さまざまな外部サービスとの連携も進み、行政やメディアと共に実証実験を展開し、地域住民の防災意識向上に貢献しています。人に寄り添うアプローチで防災を支援するオリジナリティあふれるテクノロジーとして、人から人へと広がっていく未来を築いていき、ますます注目が高まりそうです。
SEMINAR 3
株式会社Gaia Vision
代表取締役
北 祐樹 氏
TITLE気候変動リスクの可視化で防災対応力を強化
リアルタイムな気象情報と予測で迅速な避難や対策をサポート
気候学の知見をもとに設立されたGaia Visionは、東京大学発の洪水シミュレーション技術と気象データ処理技術を駆使し、洪水リスク分析プラットフォーム「Climate Vision(クライメート・ビジョン)」、1.5日先までの洪水範囲と浸水深を予測して迅速かつ最適な避難と対策を支援する「Water Vision(ウォーター・ビジョン)」を提供。リアルタイムの気象データから洪水リスクや経済面での影響を予測。東京大学・JAXAとの連携により実現し、現在100社以上が利用中。科学で未来を見通し、社会の持続可能な発展と安全を支えるサービスをご紹介いただきました。
SEMINAR 4
Visnu株式会社
代表取締役CEO
千葉 涼介 氏
TITLEエッジAIによる現場のリアルタイム分析が貴重な情報に
日常から導入することで災害時のスムーズな意思決定を支援
Visnu株式会社は、災害頻度が高まる中、限られたリソースで安全を確保するため、24時間365日のデータ分析プラットフォームを提供しています。自治体や小売店で「日常」をベースにして防災技術を活用し、災害時のスムーズな意思決定を支援。千葉氏の故郷でもある岩手県や神戸市での防災訓練、コンビニ来店者分析などの具体的な事例が紹介されました。今後はグローバル展開も視野に、先端技術ですべての人が平常時も災害時も安心して暮らせる世界を実現し「日常×防災」のシームレスを目指していると語られました。
START UP TALK SESSION
村上 建治郎 氏(株式会社Spectee 代表取締役 CEO)
泉 勇作 氏(株式会社KOKUA 代表取締役 CEO)
千葉 涼介 氏(Visnu株式会社 代表取締役 CEO)
TITLE自然災害にスタートアップはどう立ち向かうのか?
自然災害にテクノロジーで立ち向かい 被害を最小限に食い止めるスタートアップの挑戦
防災テックスタートアップの経営者の視点から、能登地震を振り返り、今の日本の災害対応の課題について議論を交わしました。冒頭、全員に「能登半島地震で感じた課題は」という問いが投げられ、それぞれの意見をフリップで発表。「調整役」と書いたSpecteeの村上氏は、ドローン技術が十分に活用されなかった理由として「国や地方自治体との連携不足」を指摘し、迅速な対応が求められる72時間以内の対応の重要性を強調しました。KOKUAの泉氏は「災害関連死」と書き、せっかく技術が進化しても運用する現場に課題が残ったままでは効果的に活用できない現状を示し、「過去の災害での経験から運用体制の重要性を再認識した」と述べました。続くVisnuの千葉氏も、情報不足や混乱した状況において調整役の存在が復旧を早めることに同調し、「現地情報の量と質」が課題だと話しました。
セッション後半では、「それぞれの将来展望・目標」をテーマにディスカッション。防災ビジネスはマネタイズが難しいという共通認識のもと、自治体との連携や、市民への啓発活動が鍵であるという点で意見が一致。スタートアップは社会課題への取り組みを通じて信頼を得る努力を続けつつ、現場での実践を重ねていくことが重要であるとの結論に至りました。
防災テックの未来をより明るく照らす
官民の垣根を超えた有意義なディスカッション
初年度は300名程度だった申し込みが、1,000名を超えた「防災テックスタートアップカンファレンス2024」。約4時間にわたり、官民の垣根を越えた熱い議論が繰り広げられました。能登半島地震の教訓を踏まえたトークセッションでは、災害対応の現状と防災テックの重要性について語られ、自治体とスタートアップの連携や新しいテクノロジーの導入がより効率的な防災対応を実現する鍵になるという認識が共有されました。
また、海外展開に関するセッションやスタートアップ同士が意見交換、防災テックの最前線を感じさせる企業セミナーでは、未来を明るく照らすような多くのアイデアに触れることができました。登壇者の熱意と知恵が集まり、これからの防災テックの新たな一歩を踏み出せたことは、今後への大きな希望を感じさせる瞬間となりました。
毎年進化を続ける「防災テックスタートアップカンファレンス」に、今後もご注目いただければと思います。
過去のイベント開催情報